「操業暗礁の危機」
「えっ、ここはそもそも工業用地として認可申請できない場所ですよ、川外さん!」。「え~っ!ビジネスパークだから大丈夫と聞いて入居したのですけど…」。それまでも立ち上げ準備段階で色々なことに直面してきたが、この時の衝撃は今でも川外さんにとって最大級だったに違いない。コムファイ社は電気関係メーカーで、その事実が判明する3ヵ月ほど前から事業開始準備などでバンコク入りしていた。
その頃は、既にBOI(タイ国投資委員会の認可する投資事業)の各種申請も修了し、あとはBOI上の要件ともなっている工場認可の手続きに向けて、ちょうど動き出したばかりのタイミングだった。BOI認可上の仮認可を当社手配の元、すでに受領しているのでその期間中の工場認可取得はマストである。
「もう、時間がありません!とにかく今の場所で何とかしようと時間を費やすよりも、引っ越しを前提に動いた方が結果的に早いです」。その時は本当にこう言うしかないような状況で、この事に気づいたきっかけは、工事認可申請手続きの必要書類で事務所兼工場兼自宅のオーナーのタビアンバーン(住所登録)を取り寄せてもらった時だった。そもそも地目上工場用地として認可されていなかったのだ!(※1)
更に時を同じくして、川外さんのビザの問題もこの時に抱えていた。当たり前だが、タイでもどこでも外国で滞在するにはビザが必要で、更に現地で就労するとなると通常は就労ビザ(Non-B Visa)が必要となる。(※2)川外さんも例外にもれず入国時に既に有効なビザを取得しているが、その頃はビザの期日が迫ってきており、延長手続きをするタイミングでもあった。
「ビザの手続きも、会社設立と今回の工場候補物件の紹介をしてもらった例のバオジャイコンサル社に持ち掛けたものですが、分かっているのかいないのか反応があまりないんですよね」。「いや、この時点で何も言ってこないというのはかなりまずいです。更新とはいえ通常は期限の2週間くらい前までには申請していないと受け付けてもらえず、出国の上、取り直しになりかねないですよ!」。この時、ビザの期限は残り3週間を切っていた…。
※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の変更等、脚色部分があります。
(※1)このほかにもよくあるのが、賃貸した場所を税務登記する場合、最終的に必ずオーナーの署名が必要となるが、近くに住んでいれば対応も柔軟にできるものの、たまに途方もなく遠隔地の時がある。最後に気付いて申請に間に合わなくなったとなったら目も当てられない。また、間に別の賃借人が入っていて転貸して借りるケースなどもあり、その場合はオーナーとコミュニケーションにおいても更に距離ができてしまうので、事前に十分な確認をしておいた方が良い。
(※2)就労ビザだけでなく、労働許可証(WP:ワークパーミット)を取得しなければ現地で働くことはできない。BOI企業の場合は通常別々の機関で発行されるビザとWPをワンストップサービスとして1ヵ所でまとめて手続きすることは可能だが、いずれにせよ両方取得が必要である。ビザは日本からタイに入る前に日本のタイ大使館や領事館で事前に取得して入国し、その時に通常90日で発給されるものを、タイにて更に1年程度延長手続きをするのが一般的である。
但野和博プロフィール
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。
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