タイのモノづくり現場でもトレンドになりつつある「5軸加工」。まだまだ人海戦術に依存している現場も多いのが実情ではあるが、近年の人件費高騰や顧客から求められるQCDレベルの高騰などを背景に、製造における効率化や工程集約は無視できない課題だろう。
5軸加工に興味はあるけれど「操作が難しい」「導入のハードルが高い」「専門知識が必要」といったネガティブな先入観を持つタイの現場スタッフは少なくないという。
工作機械×工具×CADCAM(ソフトウェア)それぞれの観点から5軸加工のメリットを提唱すべく、日本を代表するモノづくりメーカー3社がタッグを組んだ。
CAD/CAMメーカーCGSアジアは、ユニオンツール・安田工業と共同で「初心者向け5軸加工セミナー」を開催した。3社は以前から長年にわたって世界各国でセミナーを共同開催してきた実績があり、タイでは今回が初の開催となる。
シミュレーション機能で事故を防止するCAD/CAM
CGSの金型専用CAD/CAMソフトウェア「CAM-TOOL」には、5軸加工特有の専門スキルを必要とせず、高効率・高精度な金型5軸加工を実現する機能が多く搭載されている。
5軸加工において最も注意すべきなのが、機械や工具の干渉事故。それらを回避しながらマシニングセンタや工具の性能を最大限に引き出すのを得意としているソフトウェアだ。
・マシンシミュレーション
CLベースによる機械構造の干渉チェック、各軸のストロークオーバーチェックが行える。
5軸変換のGUIを用いることで、一貫した操作性と最小限のオペレーティング環境を実現し、加工事故を未然に防止。
・スムージング機能
5軸加工時の工具姿勢が急激に変化する箇所において、傾斜・旋回軸を緩やかに変化させる機能。テーブルが滑らかに回転し、高品位の加工面を得ることができる。
・自動干渉回避
干渉しない固定傾斜角度を自動算出する独自開発の5軸アルゴリズムを活用し、傾斜軸・旋回軸による干渉回避を自動で行う。
CAM-TOOLは、3軸加工の加工パスの設定に傾斜角度の設定を行うだけで自動で5軸加工のカッターパス作成が可能。オペレーターの経験やスキルに依存することなく、干渉を回避した安全で高品質な5軸加工データを簡単に作成できるのが強みだ。
5軸加工の良さを最大限に引き出す
ユニオンツールのバレル工具
ユニオンツールは、工具の観点から以下のような5軸加工のメリットについて紹介した。
・工具の突出し長を短くできる
5軸加工では、軸を傾けることで3軸加工時と比べて短い突出し長での加工が可能となり、加工能率向上と工具摩耗の抑制に高い効果を発揮する。
・刃先の周速0を回避した加工
金型の3次元加工に不可欠なボールエンドミルは、先端の周速がゼロとなるため、先端部を使用した仕上げ加工の際、加工面がむしれやすいことが難点。しかし、5軸加工によって先端を回避することで、すくい角が作用し、加工面の改善が可能となる。
・バレル工具の活用
非常に大きな曲率の外周刃が特徴の5軸加工向け工具「バレルエンドミル」。この外周バレルRを活用することで、通常のボールエンドミルと比較して、飛躍的に大きなピッチでの高効率な仕上げ加工が可能となる。小さな傾斜角で使用でき、干渉物の間隔が狭い部位に最適なCOVB、大きなバレルRで立壁や傾斜面に最適なCSTB、大きなテーパ半角で平面部の加工に最適なCWTBの3シリーズを標準ラインナップ。
▲ バレルエンドミルシリーズ
CAM-TOOL に搭載されているツールデータベース「ツーリングDB」には、ユニオンツールの約6000種にもおよぶ工具のデータベースが連携されているため、利便性が高く、相性抜群のソリューションである。
高精度と高剛性を兼ね備えた
安田工業の5軸マシニングセンタ
機械メーカーの観点で、5軸加工時に気を付けるべき注意点を踏まえた上でのYASDAの5軸MCの特長について紹介した。
・5軸加工において最適化した機械構造
日本では、工作機械を製造するマザーマシンとして名高い安田工業のマシニングセンタ。 入念なキサゲで作りこんだ直線軸の高い位置決め精度と繰り返し精度を実現し、自社製作の回転精度の非常に高いロータリーテーブルによって高精度加工を最大限に具現化している。
・熱変位に強い
5軸加工は3軸加工に比べて熱変位の変化が大きく、加工精度に影響が出やすい。急激な機械の熱変形をブロックする「機体温度制御装置」を搭載している。室温に対して高精度にコントロールした熱交換液を全体に循環させることで、周辺の温度変化による機械の急激な姿勢変化を防ぎ、安定した高精度加工を長時間実現。
▲ 熱交換液を機械全体に循環する「機体温度制御装置」イメージ
・専門知識不要で加工精度を維持できる
独自開発ソフトウェア「Navi‐CAL」は、5軸加工の経験が浅いオペレーターでも簡単に高精度に校正作業が行えるアプリだ。5軸加工において課題になりやすいプログラム作成や加工精度の安定化を助ける。
▲ 「Navi‐CAL」による高精度校正イメージ
▲ 5軸マシニングセンタ「YBM Vi40」
日本のモノづくりの一流技術を世界へ提供し続ける
同セミナー参加者にアンケートをとったところ、タイの現場オペレーターたちの5軸加工に対する興味・関心の高さが伺える結果となった。
・5軸加工の必要性を感じたことがある…90%
・セミナーの内容に満足した…99%
・セミナーの資料がほしい…95%
「C&Gシステムズ・ユニオンツール・安田工業の3社は加工機械・工具・ソフトウェアのそれぞれの分野において、専門性の高い独自技術の開発を続けてきました。
『一流に触れてみぃ』という安田工業2代目社長の言葉がありますが、我々はこの言葉の通り、日本のモノづくりの一流技術を世界に発信し続けることを共通のポリシーとして協業を行っています。
今回のセミナーを通して、タイのモノづくり市場の更なるポテンシャルを感じることができました。今後も引き続き、3社の連携を深めてお客様にとって有益なソリューションを提供していきます」(CGS柏口氏)