バンコク都心部から東に約15km。シーナカリン通りを越えて1km弱の地点、Uターン車線奥の左側に、それはあった。地上からの高さは約20m。縦12m、横幅40mの鮮やかな青色の下地に、真っ赤な「NACHI」の文字が映える。切削工具やベアリング、産業機械などを手がける機械メーカーの「不二越」 NACHI TECHNOLOGY (THAILAND) COMPANY LIMITED の屋外看板だ。描かれたロボットアーム2機が描かれていることからも、産業用ロボットメーカーのものであることは容易に察しがついた。
ここを通過する車両のドライバーや同乗者のほとんどが視界とするグッドポジション。何度も行き来を繰り返すうちに、潜在的に記憶に残っていく効果は絶大だろう。同社がこの場所に屋外看板を設置したのは2018年5月。かねてより、ロボット事業をPRしていくための訴求法を探求し続けた結果だった。タイ法人でロボット部門を束ねるVice Presidentの寶島章氏は「不特定多数の方々へ当社のロボットを知ってもらう方法は何かとずっと考えていた」と明かす。満を持しての設置となった。
寶島氏が不特定多数を意識するのには理由がある。例えば、11月下旬にバンコク郊外のイベント施設BITECで開催される東南アジア最大級の工作機械等の国際見本市「METALEX2018」。「今」という時だけを意識すれば、当然にこういった商談の場に優先的に目が行きがちだ。それも企業とすれば、ごく当たり前のこと。しかし、「中長期的に見れば、それだけではない」と同氏。今後、急激な少子化に伴う労働力不足が確実視されているタイで、自動化への国民的な意識を高めること。それも重要ではないかと考えている。
「自動化は、日系ほかタイに進出する外国企業の効率化のためだけにあるのではないと」と話す同氏。「自動化を進めて行くことで技術や生産性が上がり、良い製品を作ることができるようになる。良い製品が多量に生産できるようになれば、それを輸出していくことでタイ経済は大きく潤い、人々の生活水準も向上する」と解説する。自らの事業進出に際し、助けてもらい、支えてくれたタイ社会、タイの人々への感謝の気持ちもある。「成長を続けるタイの、もう一歩先へ進むための、わずかながらでも力になれば」と。
看板の青色と「NACHI」の赤色、2台のロボットがともに基調とする白色の計3色は、奇しくもタイの国旗と色彩を等しくする。「国王」を表す青色、「国家・国民」を表す赤色、「宗教(仏教)」を表す白色という具合に。「そんな、偶然ですよ」と寶島氏は笑ってみせるが、そんな色合いの心地よさがタイの人々の心に深く響くのかもしれない。「タイの未来の可能性を提案したい」。NACHI・不二越のさらなる挑戦を後押ししているようにも見える。
佐藤 Sato
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