高精度加工に特化したCNC精密旋盤メーカー 高松機械工業株式会社がタイに進出したのは、21世紀が始まって間もない2003年のこと。日系自動車メーカーや部品メーカーが新しい市場を求めて、海を渡った時だった。それから20年、タイ法人の高松機械工業タイランド(以下、高松機械タイ)は、タイ市場で強固なネットワークを構築し、東部ラヨーン県境イースタン・シーボードに支店を構えるまでとなった。 本稿では、本社代表取締役会長の髙松喜与志氏と、タイ法人Managing Directorの山下英二氏にこの間の歩みを振り返ってもらった。
髙松会長:2000年代初頭は、日本から自動車メーカーがサプライチェーンを引き連れて海外展開を図った時期でした。タイではピックアップトラックの需要が大きく、将来性のある魅力的な市場に映りました。
「日本で使っている(工作)機械をタイでも使いたい」。
工作機械メーカーである我々に向けられた期待も、とても大きなものでした。
しかしながら、流れに乗ってただタイに進出すれば、全てがうまくいくなどというそんな簡単なことではありませんでした。現地で機械を供給することは確かに大切なことですが、顧客にとってはそれがいつまでも正常に動いてもらうことのほうがもっと重要です。現地(タイ)で、しっかりとメンテナンスしてくれるという安心感が、私たちに対して最も強く求められたのでした。
1995年10月にタイに駐在所を設立、2003年8月に現地法人TAKAMATSU MACHINERY (THAILAND) CO., LTD. が設立されました。
出張ベースでタイを訪れていたころ、お客様が口をそろえて発していた言葉を私は忘れません。
「機械を買うのはいいけど、あなたたち(高松機械)がいなくなったらどうするの」。
以来、私は繰り返し、会社として地元(タイ)に根を張ることが必要だと言い続けてきました。顧客とともに20年。ようやく信頼が得られたかなと感じています。
山下MD:2017年4月に赴任した私は、タイ法人として4代目のMDとなります。当時のタイ市場は上昇基調にあり、17年~18年にかけて高松機械タイは過去最高の売上高を達成します。このまま好調を持続できるのではないかと甘い期待していたところ、翌年から一転してタイ経済は停滞期を迎えます。日本とは異なり、自然環境や政治情勢などさまざまな要因が複雑に絡み合うタイ市場。どう読み解けばいいのか頭を悩ます日々が続きました。
そして、20年3月からは新型コロナウイルスの感染拡大です。自動車業界のみならず市場は一気に冷え込みました。「もう一度、17年~18年の再現を」という掛け声も、この時ばかりはむなしく響きます。こうした時にあって、もう一度原点に立ち返ろうと再認識したのが、「機械を売るだけではダメだ」という考え方です。
技術力も向上し、今では旋盤など各製品の性能や能力も大きく変わらない時代となっています。できることが同じならば、顧客は何を望むのか。私たちはそれを必死で考えました。出てきた答えはただ一つ。保守点検のおける品質向上、すなわちエンジニアリング力の強化です。人と人のつながり、心の通ったサービスです。コロナ禍、私たちはこの強化に力を注ぎました。全ては顧客の信頼を得るためにと。
髙松会長:景気の波のように山あり谷ありの20年間でしたが、これを支えてくれたのが多くのタイ人スタッフたちでした。言葉の壁もありましたから、当初は心配や不安の連続でした。ですが、どうでしょう。タイ人スタッフたちの器用なこと。保守メンテナンスの難しいことなど、教えていないところまで隠れてこっそり勉強する姿勢には感心しました。
後任を育てる体制や仕組み作りも、この間に整備することができました。技術が一握りの個人に集中してしまっていては、その次はありません。世代が変わっても、変わらぬサービスが提供できるよう、後進指導はなくてはならない課題です。
そして、いずれは日本人が不在でも仕事ができる、会社が回っていける、そんなタイ人たちによるタイの会社にすることが私の最大の目標です。もちろん、必要な知識や技術は日本でトレーニングを積んでも構いません。
ですが、これまで以上にタイ社会に受け入れてもらえるためには、タイ人による運営が欠かせないと強く思うのです。
山下 Yamashita
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池田 Ikeda
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