小さな穴をいかに精度高く、かつ深くあけるか。
従来の穴あけ工具では実現できなかったこの問題を見事にクリアしたのが今回ご紹介する深穴加工用超硬工具『クレアボーラー』です。
精度が高く、切りくずの始末も簡単で、大掛かりな工作機械も必要ありません。一般的な機械にも取り付け可能な同製品は、新しい市場を切り拓いていく製品だと確信しています。
本稿では、クレアボーラーの特長とその革新性について、開発者のひとりである株式会社ゴール 西村氏と共にご紹介します。
抜群の真円度・真直度を誇る深穴加工の工具
一般的な工作機械にも取り付け可能
クレアボーラーは、広島に拠点を置く機械工具メーカー西研株式会社と、大阪に拠点を置く錠前メーカー株式会社ゴールによって開発されました。 加工する材種によっても異なりますが、刃の直径の20倍もの深さの穴を開けることができます。
どれだけ革新的なのか。金属に深い穴をあけようとするとスパイラル状のドリルを使用するのが一般的ですが、この方法ではどうしても大きくズレが生じます。穴をあける際に発生する切り屑の噛み込みも問題でした。従来のステッピング動作では、工具の破損や穴の曲がり、精度不良が起きるからです。
そもそも深穴加工には特殊なNC工作機械が欠かせません。深穴加工が可能なのは、冷却液を切削工具の中から流し込むことのできる内部給油装置を備えた機械だけ。規模の小さな工場にとって深穴加工のハードルは非常に高いと言わざるを得ません。
これらの問題をすべてクリアした工具がクレアボーラーです。切れ刃形状を変更することにより、切り屑は1本にまとまった状態で穴から排出されます。切りくずの始末も手間いらず。工具トラブルのリスクはなくなりました。
ドイツやタイの展示会で大反響
深穴加工に悩める人により深く響く
クレアボーラーは、西研と錠前メーカー、ゴールとの共同開発で生み出された製品です。もともと切削工具の再研磨を手掛けていた西研は、次第に客が求める工具をオーダーメイドで開発するようになりました。その過程で、ゴールの依頼を受けてクレアボーラーの先駆けとなる、直進性のある穴を開ける工具の開発に成功。「これを一般向けに出せないか」と考え、両社は4年もの開発期間を経て、画期的な深穴工具の実現にこぎつけました。
すでに、日本の特許のみならず、アメリカ・イスラエル・ドイツ・イタリア・フランス・スウェーデンの6ヵ国でも国際特許を取得しています。
2022年の9月、YKTヨーロッパが出展したドイツの展示会にてクレアボーラーを紹介したところ、大きな反響を得ました。「これはすごい」という声が相次ぎ、昨年のメタレックスのYKTタイランドのスペースを一部使って製品を展示。そこでの手応えを受けて、METALEX2023年では本格出展しました。
現場で加工に携わっている来場者の反応は非常によく、具体的かつ専門的な質問が数多く寄せられました。深穴加工の難しさを知り、深穴加工に悩んでいる人ほど、クレアボーラーの革新性は深く響いているようです」(ゴール 西村氏)
▲ METALEX2023でのクレアボーラー展示
コスト抑制にも寄与する切削工具
世界を変えていく技術や製品の開発を後押し
これまで、深い穴を開けようとすると、ズレが生じるのを前提に設計が行われてきました。ズレて当然、ズレは標準だったのです。そのため、どうしても部品が余計に必要になり、コスト増を招いていました。しかし、クレアボーラーであればコストも抑制できます。
クレアボーラーの名前の由来は、創造を意味する“クレア”という言葉に、ボーリング工具に近いという意味で、“ボーラー”という言葉を合わせています。クレアボーラーはドリルとは異なる精度を実現する切削工具なのです」(ゴール 西村氏)
これまでに存在しなかった深穴加工の工具ですから、今後さまざまなアイデアを後押し、世界を変えていくような新しい技術や製品の誕生に寄与していくのではないでしょうか。